RubyはWeb開発の世界では高い評価を受けており、特にRuby on RailsによってWebサービス開発の効率化を牽引してきました。
しかし、機械学習の分野ではPythonなどの他言語と比べると、Rubyが採用されるケースは多くありません。
とはいえ、Rubyは「機械学習ができない言語」ではなく、環境と目的を見極めれば十分に実用的な選択となることもあります。
ここでは、Rubyが機械学習にどの程度適しているのかを、最新の実態を踏まえて詳しく整理します。
Rubyが機械学習の主流でない理由
ライブラリとエコシステムの規模
Pythonが圧倒的に支持される最大の理由は、ライブラリの豊富さと更新スピードの速さにあります。
NumPy、Pandas、Scikit-learn、TensorFlow、PyTorchなどが事実上の業界標準となり、最新研究や実装例のほとんどがPythonで提供されています。
一方で、Rubyの機械学習ライブラリは数が限られ、ドキュメントや教材も少ないため、開発・学習のしやすさで差が生じています。
実行速度とパフォーマンス
Rubyはインタプリタ言語であり、基本的にはC言語やC++などに比べると実行速度が劣ります。
Pythonもインタプリタ型ですが、実際には多くの処理をCやCUDAで実装した高速ライブラリに依存しているため、結果的に高性能を実現しています。
Rubyはこの部分の最適化がまだ限定的なため、特に大規模データ処理ではPythonより不利になることがあります。
情報・コミュニティの規模
Pythonには機械学習に特化した世界最大規模の開発コミュニティがあり、書籍、ブログ、フォーラム、チュートリアルが豊富に存在します。
Rubyでは同レベルの知見共有がまだ少なく、問題に直面したときに参考情報を探しづらいのが現実です。
Rubyで利用できる機械学習の環境と進化
Rubyにも、基礎的な機械学習やニューラルネット構築を行えるライブラリが複数存在します。
代表的なものとしては、Rumale(scikit-learn風のMLライブラリ)、RubyDNN(ディープラーニング用フレームワーク)、Torch.rb(PyTorchのC++実装に基づくバインディング)などがあります。
さらに、数値演算をGPU上で行えるCumoというライブラリもあり、これはNumo::NArrayのCUDA対応版として動作します。
Cumoの導入により、RubyでもGPUを使った高速計算が可能になっています。
Torch.rbについては、Linux環境でCUDA、Apple Silicon環境でMPS(Metal Performance Shaders)を利用できるため、RubyでもGPU計算を活用したモデル学習や推論が実現できるようになっています。
この点は、「RubyはGPUが使えない」という過去の印象を覆す大きな進歩です。
Rubyの機械学習における強み
RubyはPythonほど研究用途に向いているとは言えませんが、実用段階での統合性や生産性に優れています。
Webアプリケーションとの統合性
Ruby on Railsとの親和性が極めて高く、学習済みモデルをWebアプリケーションやAPIの中に自然に組み込むことができます。
たとえば、Railsのバックエンドで推論処理を行い、結果を即時に返すAI搭載サービスの構築が容易です。
ONNX Runtimeによる推論の実現
Rubyには、MicrosoftのONNX Runtimeに対応する公式バインディング(onnxruntime gem)が用意されています。
この仕組みにより、Pythonで学習させたモデルをRuby上で直接読み込み、推論を実行できます。
つまり、「Pythonで学習、Rubyで提供」という実務的な分業が可能です。
可読性の高さと開発効率
Rubyの文法は自然言語に近く、コードが直感的で理解しやすいのが特長です。
そのため、アルゴリズムや機械学習の基礎を学ぶ段階では、Rubyは教育・トレーニング用途に適しています。
Pythonとの使い分け方
RubyとPythonは競合するというより、補完関係にあります。
以下のように棲み分けると効率的です。
| ユースケース | Rubyでの実現性 | Ruby+Python併用 | Python中心 |
|---|---|---|---|
| Webアプリ内で軽量な推論を行う | ◎(Railsとの統合に強い) | ◎ | △ |
| モデル学習や研究開発 | △ | △ | ◎ |
| GPUを使ったディープラーニング | △(Torch.rb, Cumo対応) | ◎ | ◎ |
| 大規模データ分析・最先端手法の検証 | × | △ | ◎ |
| 学習済みモデルのサービス化 | ◎ | ◎ | △ |
Ruby単体では最新の研究や実験には不向きですが、RailsベースのWebサービスにAIを統合する層としては非常に有用です。
特に、Pythonで作成したモデルをONNX形式で変換し、Rubyの環境で推論を行う構成は、現実的かつ保守性にも優れています。
結論:Rubyは「研究向け」ではなく「実用化向け」の選択肢
Rubyは、学習や研究中心の機械学習開発にはまだ十分とは言えませんが、Webサービスや業務アプリケーションの中にAI機能を統合・展開する段階では極めて実用的です。
特に以下のような状況ではRubyを選ぶ価値があります。
- Ruby on Railsを主軸とするプロジェクトでAI機能を導入したい場合
- Pythonで学習したモデルをRubyで効率的にサービス化したい場合
- 小規模データや軽量な推論処理をWeb経由で提供したい場合
総じて言えば、Rubyは「機械学習そのものを行う言語」ではなく、「機械学習を活かすための言語」として成熟してきています。
Torch.rbやCumo、ONNX Runtimeのような技術が整備された現在、RubyはWeb × AI時代における「橋渡し言語」として新たな可能性を広げつつあります。
以上、Rubyは機械学習に適しているのかについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
