重回帰分析は、複数の要因が「どれくらい目的の結果に影響しているのか」を同時に分析できる手法です。
予測したい結果(売上・コンバージョン数・アクセス数など)に対して、「広告費」「広告素材の質」「検索順位」「サイト速度」「季節要因」など、複数の要素をまとめて扱います。
機械学習の世界では、この重回帰分析を“予測モデル”としてより強力に扱い、改善・最適化の判断にも使います。
統計学としての重回帰と、機械学習としての重回帰
重回帰分析は統計学でも古くから使われてきましたが、機械学習として使う場合は“目的”が少し違います。
統計学的な目的
- 要因同士の関係性を理解する
- 効果がどの程度“有意”か確認する
- データの背景にある構造を解明する
機械学習的な目的
- 未来のデータをより正確に予測する
- モデルの安定性と精度を最大化する
- 過学習を防ぐために調整(正則化)を行う
つまり、統計学は「関係を知りたい」、機械学習は「精度を上げたい」のが特徴です。
実務で使うときの分析ステップ
重回帰分析のクオリティは、計算そのものよりも「準備」と「検証」で決まります。
以下はマーケ現場での自然な流れです。
データの前処理
マーケデータはそのままだと使いにくいことが多いので、
- 欠損値の補完
- 外れ値の確認
- カテゴリの数値化
- スケール(値の大きさ)の調整
などが必要になります。
前処理を丁寧にやるほど、モデルの安定性や精度が大きく向上します。
特徴量(説明変数)の相関を確認する
広告費とインプレッション数のように、強く相関している変数同士があると「どっちの影響なのか判別しにくい」状態になります。
これを「多重共線性」と呼び、分析の信頼性を下げる要因です。
そのため、事前に相関関係をチェックし、必要に応じて変数を整理することが重要です。
モデルの学習
機械学習ツールやPythonのライブラリ(scikit-learnなど)を使って、データからパターンを学習します。
モデルは「どの要因がどれだけ目的に影響するか」を自動的に算出し、予測を行えるようになります。
モデル精度の評価
- 予測誤差の指標
- 決定係数(どれくらい説明できたか)
- クロスバリデーション(分割検証)
などの手法で性能を評価します。
特に機械学習では、「未知のデータに対してどれくらい正確に予測できるか」が最重要ポイントです。
結果の解釈
モデルが割り出した係数(要因の寄与度)を見ることで、
- どの施策が成果に効いているのか
- どの変数がネガティブに働いているのか
- 何を改善すべきか
- どの施策を強化すると結果が伸びるか
などを読み取ることができます。
マーケターにとってはここが最も価値の大きい部分です。
機械学習ならではの工夫:正則化(Lasso / Ridge)
多くの説明変数を扱うと、モデルが「複雑すぎて不安定」になったり、「特定の変数に過度に依存」したりします。
これを防ぐのが正則化です。
Ridge(リッジ回帰)
- すべての係数を“適度に小さく抑える”
- 多重共線性がある時にモデルが暴れないようにする
→ 安定性を高めたい時に向いています。
Lasso(ラッソ回帰)
- 重要でない変数の係数を「完全にゼロ」にできる
- 自動的に特徴量を選択する効果がある
→ 変数が多いマーケデータでは非常に有効。
正則化のポイント
- どちらも「モデルを安定させるための調整」
- 特にマーケティングのように説明変数が多い領域ではほぼ必須
- 変数のスケール(桁の違い)を揃えることが前提
これらを行うことで、重回帰モデルは「解釈しやすく、精度も高い」状態になります。
重回帰分析が苦手とするポイントとその理由
非線形な関係を素のままでは表現しづらい
重回帰分析は「変数をそのまま扱うと、複雑な曲線的な関係を表現しにくい」という性質があります。
ただし、以下のように工夫すれば非線形も扱えてしまいます。
- 変数を二乗、三乗にする
- 対数変換を行う
- 変数同士の掛け合わせ(交互作用)を作る
このように特徴量を工夫することで、線形モデルでも驚くほど柔軟な表現が可能になります。
多重共線性の影響
説明変数が互いに強く関連していると、
- 係数が不安定
- 要因の寄与度が解釈しづらい
- モデルがブレやすい
などの問題が生じやすいという特徴があります。
ただし、予測専用モデルとして使う場合は、「係数は不安定でも予測は安定」というケースも多くあります。
重回帰分析のメリットと限界
メリット
- 結果が「解釈しやすい」
- どの要因が効いているかが明確
- データ量がそこまで多くなくても使える
- マーケ判断にそのまま活かしやすい
限界
- 変数間の相関に弱い
- 外れ値の影響を受けやすい
- 非線形構造を自動では表現しにくい
- 因果関係と相関の区別には注意が必要
ただし、特徴量変換や正則化を活用すれば弱点の多くは克服できます。
まとめ
数式を避け、マーケティング視点で理解しやすいように整理すると、重回帰分析は次のようなものです。
- 複数の要因が結果にどう効いているかを同時に把握できる
- 機械学習では「予測力」と「安定性」を高める工夫(正則化)が重要
- データ前処理と特徴量設計が成否を大きく左右する
- マーケ施策の優先順位づけに非常に役立つ
以上、機械学習の重回帰分析についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
