動画解析(Video Analysis / Video Understanding)は、いまや多くの産業領域で不可欠なコア技術になりつつあります。
従来は監視カメラやセキュリティの領域が中心でしたが、近年ではマーケティング、広告最適化、SNS分析、リテールテックなど、よりビジネスに近い分野でも活用が急速に拡大しています。
本記事では、機械学習と深層学習を用いた動画解析の基本原理から、最新のアルゴリズム、モデルの進化、そしてマーケティング領域での具体活用例まで、包括的に整理します。
動画解析とは何か
動画解析とは、映像内に存在する「物体・人物・行動・音声・シーン」などの情報を自動的に抽出・理解する技術を指します。
静止画認識と異なり、動画は時間軸(Time Dimension)を含むため、
- フレーム間の変化
- 行動の流れ
- 物体の遷移
- シーンのトランジション
を読み解く必要があり、通常の画像解析よりも複雑な処理が求められます。
解析対象の例
- 人物・車両などの物体
- 表情・姿勢・感情
- 行動(歩行、接触、転倒など)
- 店舗行動(滞留、棚前行動)
- 音声内容や音響的特徴
- 動画全体の意味(トピック、ジャンル、雰囲気)
動画解析に使われる主要モデルとアルゴリズム
動画解析では “空間 × 時間” を扱う必要があり、複数のアプローチが存在します。
ここでは代表的なモデルを整理します。
CNN(Convolutional Neural Network)系 — 物体検出の中心技術
CNN は長年、画像解析の主役として活用されてきました。
動画では、各フレームを静止画として解析する場合に使用します。
用途
- 物体検出(人物、車、商品など)
- 顔検出
- シーン分類
代表モデル
- ResNet, EfficientNet
- YOLO 系列(v5, v7, v8, YOLO-NAS など)
特に YOLO(You Only Look Once)は、
- 高速処理
- 高い精度
- 比較的軽量
という特長から、監視カメラ・店舗行動解析・交通分析など”実務”で最も使われる物体検出系モデルです。
※ 近年の YOLO 系には Transformer やハイブリッド構造を取り入れたモデルもあり、「純粋なCNN」の枠を超えて進化しています。
RNN / LSTM / GRU — 時系列解析の古典的な基盤
ディープラーニング初期には、
- CNNで特徴抽出
- RNN/LSTMで時系列処理
という構成が多く見られました。
現在は 3D-CNN や Transformer に押され気味ですが、軽量な行動認識タスクなどで依然使われる場面があります。
3D-CNN(3次元畳み込み) — 動画を“立体”として扱う
3D-CNN は動画を [高さ × 幅 × 時間]の3次元データ として直接入力し、連続した動作や行動を捉える手法です。
代表モデル
- C3D
- I3D
- SlowFast Network(Meta)
特に SlowFast は「遅いフレーム列で文脈を把握し、速いフレーム列で動きの細部を捉える」という構造で、スポーツ解析や行動認識において高いパフォーマンスを誇ります。
Transformer 系(Video Transformer) — 現代の主流
近年の動画解析のトレンドは、明らかに Transformer 系へ移行しています。
代表モデル
- ViViT
- TimeSformer
- Video Swin Transformer
- VideoMAE(自己教師あり学習モデル)
Transformers が優れる理由
- 長時間の依存関係を捉えられる
- 時間軸を柔軟に扱える
- 自己教師あり学習との相性が抜群
特に VideoMAE は、動画から“空間+時間”の特徴を効率的に抽出する技術で、アノテーションの少ない学習に強いという特性を持ちます。
マルチモーダルAI — 映像・音声・テキストの統合
動画は本質的にマルチモーダル(映像+音声+テキスト)であり、近年はこれらを統合処理するモデルが主流です。
例
- Google VideoBERT
- Meta ImageBind
- CLIP + 音声モデルとの組合せ
こうした技術により、
- シーン内容
- 発話内容
- 背景音
- 登場人物の感情
- 行動の意味
などを「まとめて理解する動画理解(Video Understanding)」が可能になります。
※ OpenAI の動画生成モデル(例:Sora)も、この種のマルチモーダル統合技術の延長線上にあると広く考えられていますが、詳細仕様は非公開です。
実際に使われる動画解析タスク
物体検出・追跡(MOT)
- 店舗の人流解析
- 車両カウント
- 違反行動検出
- セキュリティ監視
追跡には以下のアルゴリズムが使用されます。
- DeepSORT
- ByteTrack
「YOLO(検出)+ ByteTrack(追跡)」は実務で最も採用される構成のひとつです。
行動認識(Action Recognition)
動画解析の中でも研究が盛んな領域。
例
- スポーツフォーム解析
- 店舗で「商品を手に取る」「戻す」などの行動
- 工場での作業手順認識
- 異常行動の検知(転倒など)
3D-CNN や Transformer が強みを発揮します。
姿勢推定(Pose Estimation)
人物の骨格ポイント(keypoints)を推定する技術。
代表モデル
- OpenPose
- MediaPipe
- HRNet
- MMPose
用途
- スポーツ分析
- フィットネスアプリ
- ダンス解析
- 作業品質チェック
動画解析では「姿勢の変化+行動推定」で高精度な分析が可能になります。
動画検索(Video Retrieval)と要約(Summarization)
強力なAIモデルにより長時間動画の分析も自動化できます。
- 会議動画の要約
- スポーツハイライト抽出
- 特定シーンの検索
- UGC動画のタグ付け
YouTube・TikTokの解析にも応用可能です。
音声・感情解析
映像と音声を組み合わせて分析することで、新たな価値が生まれます。
- CM視聴時の表情解析
- 反応のポジティブ/ネガティブ推定
- 接客動画の品質評価
- YouTubeレビュー動画の“感情傾向”分析
動画解析の実務ワークフロー(企業での導入プロセス)
ビジネス活用を想定した場合、実務ワークフローは次のようになります。
Step 1:動画データの収集
- 監視カメラ・スマホ・デジカムから収集
- コーデック変換(H.264/H.265 等)
- レンズ歪み補正や光量調整
データ品質が解析精度を大きく左右します。
Step 2:アノテーション
- 物体のバウンディングボックス
- 姿勢の骨格情報
- 行動ラベル付け
- シーン分類
動画解析ではフレーム数が膨大なため、最もコストがかかる工程です。
Step 3:モデル選定・学習
目的に応じてモデルを選択します。
- 商品棚分析 → YOLO + DeepSORT
- 行動認識 → SlowFast / VideoMAE
- 異常検知 → 3D-CNN + 時系列モデル
GPUクラスタを使う本格的な学習もここで行われます。
Step 4:推論(Inference)
- エッジ端末でリアルタイム処理
- クラウドでバッチ処理
- APIでの解析提供
処理速度(FPS)は実務において非常に重要な指標です。
Step 5:可視化・ダッシュボード構築
マーケター目線では、このフェーズが最も価値に直結します。
- 店舗内ヒートマップ
- 滞留時間や商品接触行動の集計
- 人気エリアの可視化
- SNS動画の盛り上がりポイント分析
マーケティング領域での活用可能性
あなたの職域に直結するポイントとして、以下の応用が非常に強力です。
オフライン行動解析(店舗・イベント)
- 入店数・人流解析
- 棚前滞留
- 商品接触の頻度
- POSデータとの結合分析
実店舗のCVR改善施策に直結するデータが抽出できます。
SNS動画分析(YouTube / TikTok)
- ハイライト抽出
- タグ自動生成
- 競合動画の分類
- “ウケる瞬間”の特定
動画マーケティングのPDCAを高速化できます。
動画広告(Video Ads)の改善
- 視線解析によるクリエイティブ評価
- どのカットで離脱が起きるかの分析
- 表情・音声の統合感情解析
ABテストの効果検証にも使えます。
カスタマーサービスの品質分析
- オペレーターの表情・声の感情推定
- 発話内容の自動解析
- 顧客反応の定量化
CX改善に強力な武器になります。
今後のトレンド
動画生成AI × 動画解析の統合
動画理解と生成が統合され、「理解 → 自動編集 → 生成」 という流れが普及します。
- 自動ハイライト生成
- 動画要約
- ナレーション・BGM自動付与
- シーンの自動再構成
解析技術と生成技術が循環し、より高度なワークフローが可能に。
自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)
動画解析で最大の課題である「ラベリングコスト」が劇的に減る方向へ。
VideoMAE、MAGVIT、MVP などはその代表例です。
マルチモーダル動画検索の普及
- 「赤いシャツの女性が商品を手に取るシーンを探して」
- 「店内で滞留が発生した瞬間を抽出して」
のような自然言語検索が一般化します。
まとめ
機械学習を活用した動画解析は、
- 物体検出
- 行動認識
- 姿勢推定
- 音声解析
- マルチモーダル統合
など多様な技術の組み合わせによって、動画を深く理解する領域へ進化しています。
マーケティング領域では特に、
- 店舗行動解析
- SNS動画解析
- 動画広告最適化
- 接客品質評価
など 業務成果に直結する活用方法 が豊富で、今後も伸び続ける分野です。
以上、機械学習を活用した動画解析についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
