Transformerは、現在の生成AIや自然言語処理を支える基盤技術であり、その登場は機械学習の歴史の中でも特に大きな転換点でした。
2017年に発表された論文 “Attention Is All You Need” によって提案され、従来主流だったRNNやLSTMが抱えていた課題を根本的に解決しました。
ここでは、Transformerが何を可能にしたのか、どのような構造を持つのか、そしてどのように応用されているのかを、最新の理解に基づいて体系的に解説します。
Transformerが生まれた背景と技術的なブレイクスルー
RNN・LSTMの限界
従来は、文章のような「順序を持つデータ」はRNNやLSTMで処理されてきました。
しかし、これらのモデルには根本的な制約が存在します。
- 逐次処理しかできない
→ GPU並列計算を活かせず、学習スピードが遅い。 - 長距離依存の学習が困難
→ 文の前半で登場する情報を後半まで保持するのが構造上難しい。 - 勾配消失や勾配爆発が起こりやすい
これにより、長文の文脈理解や大規模モデルの構築に限界がありました。
Transformerがもたらした革命
Transformerは、これらの問題をSelf-Attentionという新しい仕組みで完全に塗り替えました。
- すべての単語を並列処理できる
- 文全体を一度に見渡し、任意の距離の依存関係を学習できる
- 深い層を重ねても学習が安定しやすい
この性能は、のちにBERT、GPT、T5など、多数の大型モデルへ発展する土台となりました。
Transformerの基本構造 ― EncoderとDecoder
Transformerは大きく2つのブロックから構成されています。
Encoder(入力理解) → 中間表現 → Decoder(出力生成)
Encoderの役割
入力された文章を読み取り、意味を表す抽象的なベクトル表現へと変換します。
構成要素
- Multi-Head Self-Attention
- Position-wise Feed Forward Network
- 残差接続(Residual Connection)
- Layer Normalization
Decoderの役割
Encoderが作った意味表現を参照しながら、出力(翻訳文・生成文)を順次生成していきます。
一般的なTransformerのDecoderは以下の3つで構成されます。
- Masked Multi-Head Self-Attention
- Encoder-Decoder Attention(Cross-Attention)
- Feed Forward Network
※上記は“翻訳モデルなどの完全なDecoder構造”です。
GPTのような「Decoder-onlyモデル」についての補足(正確性向上ポイント)
GPTシリーズはしばしば「Decoder型」と説明されますが、正確にはDecoderブロックの一部要素だけを利用した“Decoder-only”モデルです。
- Encoderは存在しない
- Cross-Attention(Encoder-Decoder Attention)も存在しない
- 使用するのは
Masked Multi-Head Self-Attention + Feed Forward Network の積み重ね
この構造により、先を見ない形で次のトークンを予測する「言語モデル」が成立します。
Self-Attentionの仕組み ― Transformerの中核
Self-Attentionとは、文中の各単語がお互いにどれだけ関連しているかを学習し、重要度を重みによって表現する仕組みです。
直感的な例
文章
“The cat sat on the mat because it was tired.”
Self-Attentionは "it" が "cat" を指す可能性が高いと判断し、強い重みを与えます。
Self-Attentionの計算ステップ
- 各単語ベクトルを Q(Query), K(Key), V(Value) に変換
- Q と K の内積により関連度を算出
- Softmaxで関連度を重み化
- 重み × V の合計が新しい単語表現になる
これにより、文全体を瞬時に見渡しながら文脈を組み立てられます。
Multi-Head Attention ― 複数の視点を同時に学習する仕組み
Self-Attentionを1回だけ行うのではなく、複数のヘッドを使って異なる特徴を同時に抽出します。
例
- 文法構造に注目するヘッド
- 代名詞の指示関係を見るヘッド
- 意味的な近さを捉えるヘッド
この“多様な視点の同時処理”が、Transformerの表現力を強めています。
Positional Encoding ― 単語の順序を知らせる仕組み
Transformerは並列処理のため、単語の位置情報をそのままでは認識できません。
そのため、Positional Encoding を利用して「文章中の位置」を埋め込みに組み込みます。
一般的な方法
- サイン波とコサイン波による周期的エンコーディング
- 学習可能な位置埋め込み(GPTなどで採用)
Transformerの学習プロセス
学習時には以下の流れで処理が行われます。
- テキストをトークナイズする
- 埋め込みベクトル + 位置情報を付与
- Self-Attentionで文全体の関係性を計算
- 出力層で次のトークンの確率を予測
- 予測誤差をクロスエントロピー損失で計算
- 誤差逆伝播でパラメータを更新
この繰り返しによって、モデルは大量のデータから言語パターンを習得します。
Transformerを採用した主要モデル
Encoder型モデル
- BERT
- RoBERTa
- DistilBERT
用途:分類、感情分析、検索、文書理解
Decoder-onlyモデル(生成系)
- GPTシリーズ
- LLaMA
- BLOOM
用途:文章生成、要約、対話、コード生成など
Encoder-Decoderモデル
- T5
- BART
用途:翻訳、要約、情報変換タスク全般
まとめ
Transformerは、Self-Attentionを中心とした革新的アーキテクチャにより、従来のRNNでは困難だった長距離依存の学習や大規模並列処理を可能にしました。
さらに、
- BERT(Encoder型)
- GPT(Decoder-only型)
- T5/BART(Encoder-Decoder型)
など多様な発展モデルが生まれ、現代の生成AIの基盤となっています。
以上、機械学習のTransformerについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
