C++におけるパッケージマネージャは、PythonやJavaScriptのように「これ一択」という状況にはなっていません。
これはC++という言語の性質と、長年のエコシステムの積み重なりが大きく影響しています。
本稿では、なぜC++のパッケージ管理が難しいのかを整理したうえで、現在主流となっている代表的なパッケージマネージャを、思想・得意分野・使い分けの観点から詳しく解説します。
なぜC++のパッケージ管理は難しいのか
C++のパッケージ管理が他言語より複雑になりやすい理由は、単に「古い言語だから」ではありません。
実務上の課題は、主に次の点に集約されます。
まず、C++はコンパイル言語であり、コンパイラやビルド設定の違いが成果物に直接影響します。
GCC、Clang、MSVCといった複数のコンパイラが存在し、OSごとにABIが異なり、さらにDebug/Release、静的リンク/動的リンク、C++標準のバージョンなど、条件の組み合わせによって「同じライブラリ名でも別物」となるケースが珍しくありません。
次にビルドシステムが統一されていない点も大きな要因です。
CMakeが事実上の標準になりつつあるとはいえ、Make、Meson、Bazel、独自ビルドなどが今なお併存しています。
パッケージマネージャは、単にファイルを取得するだけでなく「どのビルド設定で、どのビルドシステムと、どう連携するか」を扱う必要があるため、設計が難しくなります。
さらに、ヘッダオンリーライブラリとバイナリを生成するライブラリが混在している点も無視できません。
前者は比較的扱いやすい一方、後者はビルドオプションやリンク方式の影響を強く受けます。
この多様性が、C++におけるパッケージ管理を一層複雑にしています。
C++パッケージマネージャの役割
C++におけるパッケージマネージャは、「ライブラリをダウンロードするツール」ではありません。実務では、次のような役割を担います。
- ライブラリおよびその依存関係の取得
- コンパイラやOSごとの差異を考慮したビルド設定の管理
- 再現性のあるビルド環境の構築(特にCI/CD)
- チーム開発における環境差の吸収
つまり、C++のパッケージマネージャは「依存管理」と「ビルド環境管理」を同時に扱う存在だと考えると理解しやすくなります。
vcpkg:導入しやすさと実務向けの安定感
vcpkgはMicrosoft主導で開発されているC++パッケージマネージャで、特にWindows環境やVisual Studioとの親和性が高いことで知られています。
LinuxやmacOSにも対応しており、クロスプラットフォームで利用できます。
vcpkgには大きく分けて二つの使い方があります。
ひとつはシステム全体でライブラリを共有する従来型の使い方、もうひとつはプロジェクトごとに依存関係を管理する方式です。
現在は後者、つまりプロジェクト単位で依存を定義する運用が推奨されています。
この方式では、プロジェクト内に依存関係を明示的に記述することで、チーム開発やCI環境でも同じ構成を再現しやすくなります。
vcpkgはCMakeとの統合が非常に強く、ツールチェーンとして組み込むことで、依存ライブラリを意識せずにビルドできる点が大きな利点です。
一方で注意点もあります。
vcpkgは柔軟性よりも「使いやすさ」と「安定性」を重視した設計のため、ビルドオプションや独自構成を細かく制御したい場合には制約を感じることがあります。
また、依存関係の管理方法によっては、パッケージ単位で厳密にバージョンを固定するというより「特定時点のvcpkgリポジトリ全体を固定する」運用になりやすい側面があります。
総じて、Windows中心の開発や、Visual Studioを主軸にしたプロジェクトでは、非常に実用的な選択肢と言えます。
Conan:柔軟性と再現性を重視したプロ向けツール
ConanはPython製のC++パッケージマネージャで、柔軟性と拡張性を強く意識した設計になっています。
商用プロダクトや大規模開発、複数プラットフォーム・複数コンパイラを横断するプロジェクトでよく採用されます。
Conanの最大の特徴は、コンパイラ、OS、アーキテクチャ、ビルドタイプなどを「プロファイル」として明示的に管理できる点です。
これにより、ローカル環境とCI環境、あるいは開発機とビルドサーバー間での差異を極力排除できます。
また、社内用のパッケージレジストリを構築できるため、自社ライブラリやカスタムビルドした依存関係を安全に共有することも可能です。
この点は、長期運用やチーム規模が大きいプロジェクトでは大きなメリットになります。
その反面、学習コストは高めです。
設定ファイルの理解や運用ルールの設計には一定の知識と経験が求められ、小規模・短期のプロジェクトではオーバースペックになることもあります。
ただし、プロジェクト規模よりも「再現性・CI重視・配布物の安定性」が重要な場合には、小さなプロジェクトでもConanが適するケースはあります。
CMake FetchContent:軽量でシンプルな選択肢
CMake FetchContentは、厳密には独立したパッケージマネージャではなく、CMakeに標準で組み込まれている外部依存取得機能です。
追加ツールを導入せず、CMakeだけで完結する点が最大の特徴です。
FetchContentは、外部ライブラリをソースコードとして取得し、ビルドプロセスに直接組み込みます。
そのため、学習用途や小規模プロジェクト、OSS開発などでは非常に扱いやすい選択肢です。
ただし、依存関係が増えてくると注意が必要になります。依存の宣言順序やビルドオプションの伝播によって、意図しない設定が適用されることがあります。
また、ビルド時に外部リソースを取得する仕組みのため、キャッシュやネットワーク環境を考慮しないとビルド時間や再現性に影響が出る場合があります。
FetchContentはGitHub専用の仕組みではなく、様々な取得方法が使えますが、「依存管理を本格的に行うツール」というよりは「軽量な取り込み手段」と捉えるのが適切です。
OS標準のパッケージマネージャについて
LinuxのaptやmacOSのHomebrewといったOS標準のパッケージマネージャも、C++開発で補助的に使われることがあります。
ツールチェーンや開発環境の構築には非常に便利ですが、アプリケーションの依存ライブラリ管理をすべて任せるのは注意が必要です。
OSパッケージはバージョン固定や環境差の制御が難しく、CIやチーム開発では差異が生じやすいため、C++ライブラリの依存管理には専用の仕組みを併用するのが一般的です。
どう選ぶべきか:実務的な判断基準
C++のパッケージマネージャ選定に「正解」はありません。
判断の軸としては、次の点が重要です。
- WindowsやVisual Studio中心か
- クロスプラットフォーム・複数コンパイラ対応が必要か
- CI/CDでの再現性をどこまで重視するか
- プロジェクトの寿命と規模
導入のしやすさを重視するならvcpkg、柔軟性と再現性を最優先するならConan、軽量さと手軽さを求めるならFetchContent、という住み分けが現実的です。
まとめ
C++のパッケージ管理は複雑ですが、それは言語の欠点というより「幅広い用途に対応してきた結果」です。
重要なのは、最初から完璧な仕組みを目指すことではなく、プロジェクトの性質に合ったツールを選ぶことです。
小さく始め、必要に応じてより強力な仕組みに移行する。
この考え方が、C++のパッケージ管理では最も現実的で安全なアプローチと言えるでしょう。
以上、C++のパッケージマネージャについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
