機械学習のlossが下がらない原因について

AI実装検定のご案内

機械学習を実装していると、「lossが全く下がらない」「学習が安定しない」といった状況に誰もが一度は直面します。

この問題は一見単純に見えて、実際には学習率、データ品質、モデル構造、損失関数の設計、実装上のミスなど、複数の要因が絡み合っていることが多いのです。

ここでは、理論的背景 → よくある症状 → 実践的な改善策の流れで、lossが下がらない原因を体系的に解説します。

目次

学習率(Learning Rate)の不適切な設定

理論的背景

学習率は勾配降下法における「一歩の大きさ」を決定します。

  • 高すぎる:最適解を飛び越え、lossが発散する。
  • 低すぎる:更新が極端に小さく、lossが「ほとんど変わらないように見える」。

よくある兆候

  • lossが全く減少しない、または乱高下する。
  • Validation lossも安定しない。
  • NaNinf が発生する。

改善策

  • 代表的な初期値として 1e-31e-41e-5 などを試す。
  • 学習率スケジューラ(ReduceLROnPlateauCosineAnnealingLRなど)を導入。
  • Optimizerに応じて適正範囲を調整(例:Adamは1e-3前後が多い)。

データの問題(スケーリング・品質・クラス不均衡)

理論的背景

モデルはデータ分布に依存して学習します。

入力のスケールやラベルの品質が悪いと、学習は進みません。

主な原因

  • 正規化がされていない:画像が[0,255]のまま、特徴量に極端なスケール差。
  • ラベルノイズが多い:誤った教師データが含まれている。
  • クラス不均衡:特定クラスばかり予測するようになる。

改善策

  • 標準化(mean=0, std=1)やmin-maxスケーリングを適用。
  • ラベルの正確性を検証。
  • 不均衡データには class_weightSMOTE を使用。
  • lossが下がっても少数派クラスの精度が上がらない場合は、不均衡が疑われる。

モデルの表現力が適切でない

理論的背景

モデルが複雑すぎると過学習、単純すぎるとアンダーフィッティングが起こります。

兆候

  • 過小表現力:train lossが下がらない。
  • 過大表現力:train lossは下がるがval lossが上がる。

改善策

  • ネットワークの層数・ユニット数を調整。
  • Dropoutや正則化を導入。
  • 転移学習を検討(特に画像・NLP系タスク)。

損失関数の不適切な選択

理論的背景

損失関数は「何を最適化するか」を定義します。

タスクに合っていなければ、lossが下がらないのは当然です。

よくある誤り

  • 分類問題にMSELossを使用(理論上は可能だが非効率)。
  • 回帰タスクにCrossEntropyLossを使用。
  • カスタムlossが常に定数を返している。

改善策

  • タスク別の推奨例
    • 分類:CrossEntropyLossBCEWithLogitsLoss
    • 回帰:MSELossL1Loss
    • セグメンテーション:DiceLossIoULoss
  • 出力層との整合性も確認。
    • 例:PyTorchではCrossEntropyLossにSoftmaxを事前に適用しない(内部で処理される)。

最適化アルゴリズムや勾配の問題

理論的背景

勾配が消失・爆発すると学習が進みません。

特に深層ネットワークやRNNで顕著です。

原因

  • 活性化関数(sigmoid, tanh)による勾配消失。
  • 重み初期化の不適切さ。
  • ネットワークの過度な深さ。

改善策

  • 根本対策:初期化方法を見直す(Xavier、He Initialization)。
  • 対症療法:勾配クリッピング(clip_grad_norm_)。
  • BatchNorm / LayerNormで勾配を安定化。
  • Optimizerを変更(SGD → AdamWなど)。

バッチサイズ・データシャッフルの影響

理論的背景

バッチサイズやデータ順序は勾配のばらつきに影響します。

問題例

  • 小さすぎるバッチ:勾配がノイズ的で不安定。
  • データがシャッフルされていない:学習が偏る。

改善策

  • 適切なバッチサイズ(例:32〜256程度)を試す。
  • DataLoadershuffle=Trueを設定。
  • データオーグメンテーションで多様性を増やす。

実装上のミス・学習手順の誤り

よくある初歩的なミス

  • model.train()を呼び忘れる(DropoutやBatchNormが無効化)。
  • optimizer.zero_grad()を毎バッチで呼んでいない。
  • loss.backward()optimizer.step()の順序が逆。
  • deviceがCPU/GPUで不一致。
  • lossを平均せずスケールが崩れる。

チェックリスト

  1. model.train() / model.eval() を正しく切り替えているか
  2. zero_grad()backward()step() の順序が正しいか
  3. データとモデルが同じデバイスにあるか

過学習・アンダーフィッティング

現象

  • 過学習:train lossは下がるがval lossが上昇。
  • アンダーフィッティング:train lossすら下がらない。

改善策

  • 過学習対策:正則化、データ拡張、EarlyStopping。
  • アンダーフィッティング対策:モデル強化、学習率上げ、訓練時間延長。

初期化・ランダム性の影響

初期重みによって学習経路が大きく変わります。

特に深層モデルでは、不適切な初期化が勾配爆発を誘発します。

改善策

  • 重み初期化法を変更(He, Xavier)。
  • torch.manual_seed()などでシード固定。
  • 複数回初期化して安定性を検証。

ログ・モニタリング不足

「lossが下がっていないように見える」だけで、実際はわずかに減っているケースもあります。

学習過程を可視化・記録することで真の挙動を確認できます。

推奨手法

  • TensorBoardでloss・精度をグラフ化。
  • 学習率スケジュール・勾配分布を記録。
  • Validation lossとの乖離を追跡。

最終チェックリスト

カテゴリ確認ポイント
学習率高すぎないか・低すぎないか?
データ正規化・ラベル品質・不均衡対応は?
モデル適度な表現力か?過学習していないか?
損失関数タスクに適しているか?実装上のミスは?
Optimizer勾配が安定しているか?
実装学習ループの順序・デバイスは正しいか?
ログ学習曲線を追えているか?

まとめ

lossが下がらない原因は、一見モデルの問題に見えても、実際には「データ前処理」「学習率」「損失関数」「実装手順」などが絡み合っているケースがほとんどです。

まずは上記のチェックリストをもとに、再現性を持って問題を切り分けることが重要です。

以上、機械学習のlossが下がらない原因についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次