機械学習の世界では Python が圧倒的に主流ですが、C++ による機械学習は現在も非常に重要で、特に 高速性・リアルタイム性・組み込み用途・プロダクション運用 といった領域では欠かせない存在です。
この文書では、最新の技術状況を踏まえて、C++ で機械学習を扱う意味、使用される主要ライブラリ、推論フロー、実務での位置づけを体系的に解説します。
なぜ C++ は依然として機械学習で重要なのか
圧倒的な高速性とメモリ効率
C++ はメモリ管理を細かく制御でき、パフォーマンスが極めて高い言語です。
とくに次のような用途では Python より適しています。
- 自動運転・ロボティクスなどのリアルタイム推論
- 大規模サービスでの低レイテンシ推論
- 組み込み・エッジデバイスへの最適化
- GPU / SIMD / マルチスレッドを駆使した実行基盤
モデル開発の裏側は C++ で動いている
TensorFlow や PyTorch などの主要フレームワークも、内部の高速計算部分は C++ と CUDA を中心に構築されています。
つまり、Python は使いやすいフロントエンド、C++ が高性能な基盤という構造です。
実務での「Python・C++ の役割分担」が明確
- 研究開発・実験 → Python
- プロダクションの高速推論 → C++
この分業が、現在の標準的ワークフローになっています。
C++から使える主要機械学習ライブラリ(最新状況に合わせて整理)
ONNX Runtime(C++推論の第一候補)
最も現実的かつ広く採用される推論エンジンです。
- PyTorch / TensorFlow で学習したモデル → ONNXへ変換
- C++から ONNX Runtime で超高速推論
- CPU / GPU / モバイル / WebAssembly など幅広く最適化
- 本番運用での実績が非常に多い
特に 「Python で学習 → C++ で推論」 の標準スタイルの中心にある存在です。
LibTorch(PyTorch の C++ フロントエンド)
PyTorch の C++ 版であり、C++ だけでモデル構築・学習・推論まで完結できる唯一の本格的な深層学習フレームワークです。
- PyTorch とほぼ同じ API デザイン
- 研究用途にもプロダクション用途にも使える
- 自前の C++ アプリに深層学習を密接に統合したい場合に最適
ただし、Python よりコード量は多く、初学者にはやや敷居があります。
TensorFlow C++ API(主に推論用途)
TensorFlow には C++ API が存在し、学習処理を C++ で記述することも理論上は可能です。
ただし実務では、
- 公開ドキュメントが少ない
- コミュニティサンプルも極端に少ない
- C++ による学習実装はほぼ行われない
という状況のため、推論用としての利用が中心です。
dlib / mlpack / Shark(軽量・高速な古典的ML用)
これらは深層学習だけでなく、SVM・決定木・クラスタリングなどの古典的な機械学習を C++ で扱えるライブラリです。
- dlib:画像処理+ML。使いやすく実務でも人気
- mlpack:高速な数値処理と ML アルゴリズム
- Shark:最適化アルゴリズムが充実
軽量で高速な処理がしたい場合に適しています。
Eigen / Armadillo(自作ニューラルネットの基盤)
「NN の内部を理解するために自作したい」「特殊用途でモデルをゼロから書きたい」というときに役立つ線形代数ライブラリ。
- Eigen → 行列演算の事実上の標準
- Armadillo → MATLAB 風の書き味で扱いやすい
研究や教育の場では特によく使われます。
最新事情を踏まえた注意点(誤解を避ける重要ポイント)
MXNet はすでに「引退」したプロジェクト
旧来は C++ API を備えた深層学習フレームワークとして有名でしたが、現在は Apache Official により Retired(現在メンテされていない) ため、新規採用は推奨されません。
TensorFlow C++ API の学習サポートは現実的ではない
理論的には C++ で学習処理を組めるものの、
- APIがかなり低レベル
- 実必須のサンプルやドキュメントが少ない
- 実務コミュニティはほぼ Python 学習に一本化
という事情から、C++ での学習は実務では非推奨と考えるのが正確です。
C++ による機械学習実装スタイル:3つの典型パターン
パターン1:Pythonで学習 → C++で高速推論(最も実務的)
現代のプロダクションAI開発では、この流れが王道です。
- Python(PyTorch / TensorFlow)でモデルを学習
- ONNX形式に変換
- C++アプリに統合し、高速推論を実行
これにより、開発効率と実行速度の両立が可能になります。
パターン2:LibTorchを用いて C++ 内で完結させる
C++ だけで深層学習モデルを構築、学習、推論したい場合に向いています。
- 既存の C++ システムに深く統合したい
- Python を本番環境で使えない
- 低レイヤーのメモリ管理・最適化を細かく行いたい
といった状況で採用されます。
パターン3:アルゴリズムを完全自作する
Eigen 等の行列演算ライブラリを使って、
- 全結合層
- 活性化関数
- 勾配計算
- 最適化(SGD など)
を自作するパターンです。
研究・教育・または特殊用途の最適化などに使われます。
C++×機械学習はどこで使われているのか:実務的ユースケース
リアルタイム推論(自動運転・ロボティクス)
ミリ秒単位の制約環境では、Python では速度が不足します。
C++ + GPU(CUDA)による高速最適化が必須です。
大規模サービスの推論基盤
広告配信・レコメンドシステム・検索システムなど、巨大トラフィックを捌くサービスでは C++ が強みを発揮します。
Webマーケティングの分野でも
- CTR予測
- CVR予測
- 行動スコアリング
- 広告入札の最適化
といった部分の推論エンジンを高速化する際に C++ が有効です。
組み込み・IoT・モバイル
ONNX Runtime Mobile などの登場により、AI を軽量に端末へ組み込むケースが増えています。
画像処理 × AI(OpenCV + ONNX)
アプリ内での高速画像分類や物体検出を行う際、C++ は非常に有利です。
C++での機械学習習得ロードマップ
以下の流れで習得すると成長がスムーズです。
STEP 1:行列演算・線形代数の理解
Eigen などを使って機械学習の基盤を学ぶ。
STEP 2:古典的MLの実装
ロジスティック回帰や小規模NNで勾配計算を理解。
STEP 3:主要ライブラリの使い分け
- 推論 → ONNX Runtime
- 開発もC++で → LibTorch
- 補助的なML → dlib, mlpack
STEP 4:Python → C++ の実務フロー
- PyTorch/TensorFlowで学習
- ONNX変換
- C++で最適化された推論処理を構築
STEP 5:最適化テクニック
- マルチスレッド
- SIMDベクトル化
- CUDA / TensorRT によるGPU最適化
以上、c++で行う機械学習についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
