AI分野では近年、「AIエージェント」「エージェント型AI(Agentic AI)」という言葉が頻繁に使われています。
しかし実際には、これらの用語は完全に標準化された厳密定義が存在せず、文脈(研究・プロダクト・ベンダー資料)によって使い分けが異なります。
そのため、表面的な言葉の違いだけで理解すると混乱しやすいのが実情です。
本記事では、現在もっとも誤解が少なく、実務・技術の両面で通用しやすい整理で解説します。
まず大前提:名詞と性質を分けて考える
混乱の最大の原因は、
- 「何を指す言葉か(名詞)」
- 「どんな性質か(形容)」
が混ざって語られている点にあります。
基本的な整理
- AIエージェント(Agent)
→ 役割・実体・システムを指す名詞 - エージェント型AI(Agentic AI)
→ AIの自律性・振る舞いの度合いを示す性質
この整理を押さえるだけで、議論のズレは大幅に減ります。
AIエージェントとは何か
定義(安全で汎用的な言い方)
AIエージェントとは、目標を達成するために、環境を観測し、判断し、行動するAIシステム(またはその役割)です。
重要なのは、「単なる応答AI」ではなく、目的達成を前提に行動する存在である点です。
AIエージェントの基本構造
多くの文献・実装で、AIエージェントは次の循環構造を持ちます。
- 観測(Perception)
ユーザー入力、データ、外部API、環境情報などを取得 - 推論・判断(Reasoning / Decision)
目的や制約を踏まえて次の行動を決定 - 行動(Action)
応答生成、ツール実行、データ操作、通知など
この「観測 → 判断 → 行動」のループが、エージェント性の核です。
現代的なAIエージェントの特徴
現在の実用的なAIエージェントは、単なるLLM単体ではなく、以下を組み合わせたシステムとして構築されることが一般的です。
- 言語モデル(LLM)
- ツール利用(API、検索、DB操作など)
- 状態管理(短期・長期メモリ)
- 制御ロジック(ルール・権限・停止条件)
そのため、「AIエージェント=1つのモデル」と理解するより、「AIエージェント=目的を持って動くAIシステム」と捉える方が正確です。
エージェント型AI(Agentic AI)とは何か
定義(断定を避けた整理)
エージェント型AI(Agentic AI)とは、AIがどれだけ自律的に目標を追跡し、計画し、行動できるかという“性質・設計思想・度合い”を表す言葉です。
つまり、
- 具体的な製品名
- 特定のAIの種類
を指す言葉ではありません。
「Agentic」とは何を意味するのか
「agentic(エージェント的)」という形容は、主に次の能力が強いことを示します。
- 自律性:逐一人間が指示しなくても動ける
- 計画性:目標を分解し、手順を組み立てられる
- ツール利用能力:必要に応じて外部機能を使える
- 評価・修正:結果を見てやり直しや改善ができる
- 継続的目標追跡:短い対話で終わらず、目的を維持できる
これらの性質が強いほど、「エージェント型(agentic)である」と表現されます。
マルチエージェントとの関係
エージェント型AIは、複数のAIエージェントを協調させる設計(マルチエージェント)と非常に相性が良いのは事実です。
ただし重要なのは、エージェント型AI = マルチエージェントではない、という点です。
- 単一のAIエージェントでも
計画・実行・評価・修正を自律的に行えれば
agentic と呼ばれ得ます。
両者の関係を整理すると
| 観点 | AIエージェント | エージェント型AI |
|---|---|---|
| 役割 | 実体・システム・役割 | 性質・設計思想 |
| 文法的性質 | 名詞 | 形容 |
| 指すもの | 「何か」 | 「どの程度か」 |
| 関係性 | agenticであり得る | agentを前提に語られることが多い |
一文で表すなら
AIエージェントは“存在”であり、エージェント型AIは“あり方”である
実務・ビジネス視点での理解
AIエージェントが強調される場面
- チャットボット
- 業務自動化ツール
- カスタマーサポート
- コンテンツ生成補助
→ 「このAIは何をしてくれるのか」が焦点
エージェント型AIが強調される場面
- 高度な業務自動化
- 複雑な意思決定プロセス
- 長期的なタスク運用
- 複数機能の統合制御
→ 「どれだけ自律的に任せられるか」が焦点
まとめ
- AIエージェント
→ 目的を持って観測・判断・行動するAIシステム(または役割) - エージェント型AI(Agentic AI)
→ AIの自律性・計画性・行動力の“強さ”を表す性質
このように理解すれば、研究・プロダクト・マーケティング・実装のどの文脈でも、大きなズレなく使い分けることができます。
以上、AIエージェントとエージェント型AIの違いについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
