近年、生成AIの文脈で「AIエージェント」 と 「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という言葉を目にする機会が急増しています。
しかし実務の現場では、
- 「RAGとエージェントの違いが曖昧」
- 「RAG=エージェントの一種?」
- 「どちらを使えばいいのか分からない」
といった混乱も少なくありません。
結論から言うと、AIエージェントとRAGは競合概念ではなく、役割がまったく異なる技術です。
むしろ、正しく理解すると “組み合わせて使う”ことで最大の効果を発揮します。
AIエージェントとは何か
定義(正確版)
AIエージェントとは、目標を与えられると、その達成に向けて自律的に計画・判断・行動を繰り返すAIシステムです。
単なる質問応答AIではなく、「次に何をすべきか」を自分で決め、外部ツールを使い、結果を評価しながら前に進みます。
AIエージェントの基本構造
AIエージェントは、多くの場合次のループ構造を持ちます。
- 目標(Goal)
- 例:
- Webサイトの改善案を作る
- 月次レポートを自動生成する
- 例:
- 計画・推論(Planning / Reasoning)
- タスクを分解
- 実行順序を決定
- 行動(Action)
- Web検索
- API呼び出し
- ファイル生成
- データ更新
- 観測・評価(Observation / Reflection)
- 結果は妥当か
- 次に修正すべき点は何か
- 再計画(Loop)
重要なのは、人が逐一指示しなくても“目的達成まで動き続ける”点です。
AIエージェントが向いている領域
- 業務フローの自動化
- マーケティング施策の継続改善
- レポーティング・分析業務
- 複数ツールを横断する作業
- 人間の意思決定を補助するタスク
「考えて動く」必要がある業務は、AIエージェントの得意分野です。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは何か
定義(正確版)
RAGとは、LLMが回答を生成する前に、外部の知識ソースから関連情報を取得し、それを根拠として文章生成を行う仕組みです。
RAGは「自律的に行動する仕組み」ではなく、生成結果の正確性・根拠性を高めるためのアーキテクチャです。
RAGが生まれた背景
LLMには以下の弱点があります。
- 学習時点以降の情報を知らない
- 社内限定情報を参照できない
- それらしい誤情報(ハルシネーション)を生成する
RAGはこれを解決するために、
- 検索(Retrieval)
- 生成(Generation)
を組み合わせた仕組みとして設計されました。
RAGの基本フロー
- ユーザーの質問を受け取る
- 関連ドキュメントを検索
- 社内資料
- マニュアル
- データベース
- FAQ
- 検索結果をLLMに渡す
- その情報を根拠に回答を生成
AIは「与えられた情報の範囲内で答える」のがRAGの本質です。
RAGの強みと注意点
強み
- 社内・非公開データを活用できる
- 回答に根拠を持たせやすい
- ハルシネーションを抑制できる
注意点
- 正確性は「検索品質」「データ品質」に強く依存する
- 関係ない文書を引くと誤回答になる
- 設計次第では“それっぽい誤回答”も起こる
RAGは「自動的に正確になる魔法」ではない点が重要です。
AIエージェントとRAGの本質的な違い
役割の違い
| 観点 | AIエージェント | RAG |
|---|---|---|
| 本質 | 行動主体 | 知識補強の仕組み |
| 目的 | 目標達成 | 正確な回答生成 |
| 判断 | 自律的に行う | 行わない(設計次第) |
| 動作 | 多段階・ループ型 | 単発が基本 |
| 創造性 | 高い | 制約付き |
| 正確性 | ガードレール次第 | 上げやすいが設計依存 |
「RAGは行動しない」はどういう意味か
よくある誤解として「RAGは検索しかしない」という言い方があります。
これは 伝統的なRAG(single-shot RAG) に限れば概ね正しいですが、最近では AIエージェントがRAGを“道具として”使う構成(Agentic RAG) も一般的です。
つまり、
- RAG単体:
検索 → 生成(1回) - エージェント × RAG:
必要に応じて何度も検索し、判断に活かす
RAGは「主体」ではなく、エージェントに使われる“機能”になり得るのです。
実務での正しい使い分け
RAG単体が向いているケース
- 社内FAQ
- マニュアル検索
- 規約・法務文書の参照
- 製品仕様の問い合わせ対応
正確性・一貫性が最優先の場面。
AIエージェントが向いているケース
- 業務自動化
- 分析・レポート作成
- 継続的な改善タスク
- 複数ツールを横断する作業
判断・行動・試行錯誤が必要な場面。
最も実務的に強い構成
AIエージェント × RAG
- エージェント:
「何をすべきか」を判断し行動 - RAG:
判断の根拠となる正確な情報を提供
“正しい情報を参照しながら、自律的に動くAI”
これが現在の実務における最適解です。
まとめ
- AIエージェント
→ 目標達成のために「考えて動くAI」 - RAG
→ 回答の正確性を高める「知識取得の仕組み」 - 両者は対立概念ではない
- RAGはエージェントに組み込まれることが多い
- 実務では「組み合わせ前提」で考えるのが正しい
以上、AIエージェントとRAGの違いについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
