C++で行列計算を行う場合、用途や求める性能、開発環境によって選択すべきライブラリは大きく異なります。
現在主流となっているライブラリはそれぞれ設計思想が異なり、「万能な一択」は存在しません。
そのため、目的に応じた選定が重要になります。
以下では、実務・研究の両方で広く利用されている代表的な行列計算ライブラリについて、特徴や適した用途を中心に整理します。
Eigen
Eigenは、C++における行列計算ライブラリの中でも利用例が非常に多い定番の選択肢の一つです。
ヘッダオンリーで提供されており、外部ライブラリへの依存が少ない点が特徴です。
そのため導入が容易で、個人開発から業務利用まで幅広く使われています。
動的サイズ行列と固定サイズ行列の両方を扱える設計になっており、比較的小規模から中規模の行列演算では扱いやすさと性能のバランスが良いと評価されています。
また、LU分解、QR分解、SVD、固有値計算など、線形代数で一般的に必要とされる機能が一通り揃っています。
一方で、非常に巨大な行列や特定の演算においては、BLAS系ライブラリを直接用いた場合と比較して性能面で差が出るケースもあります。
ただし、これは問題サイズやビルド設定、計算内容によって左右されるため一概には言えません。
Armadillo
Armadilloは、数式に近い記法で行列演算を記述できることを重視したライブラリです。
内部的にはBLASやLAPACKを利用できる設計になっており、使用する実装(OpenBLASやIntel MKLなど)によって性能が大きく変わります。
MATLABやOctaveに慣れている開発者にとっては直感的に扱いやすく、研究用途や数値解析の分野でよく利用されます。
ただし、性能や機能を最大限活かすにはBLAS/LAPACK系ライブラリとのリンクが前提になることが多く、ビルド環境の構築はEigenよりやや複雑になる傾向があります。
BLAS / LAPACK
BLASおよびLAPACKは、数値線形代数分野で長年利用されてきた標準的なライブラリ群です。
行列積や連立一次方程式、各種分解処理などの基本的な計算が定義されており、多くの高レベル行列ライブラリの基盤として使われています。
BLASやLAPACKそのものは仕様に近い存在であり、実際の性能はOpenBLASやIntel MKLなどの最適化実装に依存します。
これらを適切に利用した場合、CPU性能を最大限引き出した高速な行列演算が可能になります。
一方で、APIは低レベルであり、直接利用する場合は記述量が多くなりがちです。
そのため、通常はEigenやArmadilloなどの上位ライブラリを通じて利用されるケースが一般的です。
OpenCV
OpenCVは主に画像処理・コンピュータビジョン向けのライブラリですが、内部で行列を基本データ構造として扱います。
そのため、画像処理の文脈では自然に行列演算を行うことができます。
一般的な数値線形代数ライブラリと比べると、純粋な行列計算を目的とした設計ではありませんが、画像処理やカメラ関連の処理と組み合わせて使う場合には非常に有用です。
GLM
GLMは、グラフィックス用途を主眼に置いた数学ライブラリです。
OpenGLやGLSLと親和性の高い型や命名規則を採用しており、3Dベクトルや4×4行列、クォータニオンなどを自然に扱えます。
一般的な数値解析や大規模行列計算には向きませんが、ゲーム開発やリアルタイム3D描画の分野では実質的な標準ライブラリの一つとして利用されています。
Blaze
Blazeは、高性能計算を意識したC++向け行列ライブラリです。
式テンプレートを活用することで不要な中間オブジェクトを削減し、高速な実行を目指しています。
特定の条件下では非常に高い性能を発揮しますが、演算内容や行列サイズ、コンパイラ最適化の影響を受けやすいため、常に他ライブラリより高速であるとは限りません。
主にHPCや性能検証を前提とした開発で選択されることが多いライブラリです。
ライブラリ選定の考え方
行列計算ライブラリを選ぶ際には、以下の点を整理すると判断しやすくなります。
- 行列のサイズと計算量
- 可読性や開発速度を重視するか、性能を最優先するか
- ビルド環境や依存関係をどこまで許容できるか
- 画像処理や3D描画など、特定分野との統合が必要か
多くのケースでは、まずEigenを選び、性能や機能に不足を感じた段階でBLAS系ライブラリや他の選択肢を検討する、という流れが現実的です。
まとめ
- 汎用性と扱いやすさを重視するならEigenが有力候補
- 数値解析や研究用途ではArmadilloやBLAS/LAPACK系が選ばれることが多い
- 画像処理や3D用途では専用ライブラリ(OpenCVやGLM)が適している
- 最高性能を追求する場合は、実装や環境を含めた検討が不可欠
このように、C++の行列計算ライブラリは「何を作るか」によって最適解が変わります。
用途を明確にしたうえで選定することが、最も重要なポイントです。
以上、C++の行列計算のライブラリについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
