Pythonでデータ解析を行う際に欠かせないライブラリといえば、Pandasが長らくデファクトスタンダードとして利用されてきました。
一方、近年登場したPolarsは、高性能かつモダンな設計を備えた新世代のデータフレームライブラリとして注目を集めています。
両者にはどのような違いがあるのかを整理してみましょう。
目次
開発背景と設計思想
- Pandas
2008年頃に誕生し、Pythonにおけるデータ分析の基盤を築いてきました。ExcelやRユーザーにも直感的に扱いやすく設計され、豊富な機能と長年の利用実績があります。基本的にはメモリ内処理を前提としたシングルスレッド実行ですが、一部のI/O処理では並列化が行われる場合もあります。 - Polars
2020年頃にRustで実装された新しいライブラリです。マルチスレッド処理・SIMD命令・遅延評価を組み合わせることで、大規模データでも高速に処理できる設計が特徴です。Arrowフォーマットをベースにしており、効率的かつ型安全なデータ処理が可能です。
パフォーマンス
- Pandas
- 数百万行程度までは十分な性能を発揮。
- ただし大規模データでは速度やメモリ使用量が課題になることが多い。
- 拡張ツール(Dask, Modinなど)を組み合わせれば分散・並列処理も可能。
- Polars
- Rust実装とマルチスレッド最適化により、Pandasの数倍〜数十倍の速度を実現するケースもある。
- 遅延評価(Lazyモード)では、不要列のプルーニングやフィルタープッシュダウンなどのクエリ最適化を自動で行うため、大規模データ処理に特に強い。
APIと書きやすさ
- Pandas
- Pythonユーザーにとって馴染みやすく、直感的でシンプル。学習リソースも豊富で初心者にも扱いやすい。
import pandas as pd
df = pd.DataFrame({"a": [1, 2, 3], "b": [4, 5, 6]})
print(df["a"].mean())
- Polars
- Pandasに似た直感的APIも用意されており、移行のハードルは低め。Lazyモードでは宣言的・SQL的な書き方が可能。
import polars as pl
df = pl.DataFrame({"a": [1, 2, 3], "b": [4, 5, 6]})
print(df["a"].mean())
Lazyモードでは次のように書けます。
result = df.lazy().select(pl.col("a").mean()).collect()
print(result)
型システムと安全性
- Pandas
データ型が柔軟で扱いやすい反面、object
型の混在など曖昧さによるエラーが発生しやすい。 - Polars
Rust由来の厳格な型システムを採用。型の不整合を早期に検出でき、Arrowフォーマットをベースにするため外部システムとのデータ連携もスムーズ。
エコシステムとの互換性
- Pandas
Pythonデータ分析の中心的存在であり、NumPy・Matplotlib・scikit-learnなどほぼすべてのライブラリがPandasと連携可能。 - Polars
急速にエコシステムが拡充中。特にPyArrowとの親和性が高く、ArrowベースのツールやSpark・DuckDBなどとのデータ交換が容易。Pandasへの変換も可能なため、補完的に使える。
学習コスト
- Pandas
豊富な教材や事例があり、習得が容易。 - Polars
基本APIはPandasと似ており、経験者ならすぐに馴染める。
ただしLazyモードや厳格な型管理といった新しい概念には慣れが必要。
使い分けの指針
- Pandasを選ぶべきケース
- 中小規模のデータ解析
- 他のPythonライブラリと広く連携する必要がある場合
- 既存のコードベースやチームがPandas中心で動いている場合
- Polarsを選ぶべきケース
- 数千万〜億レコード規模の大規模データ処理
- 高速処理やマルチスレッド性能を重視する場合
- ArrowやSQL的な最適化を活かしたい場合
- 将来的なスケーラビリティを意識した開発
まとめ
Pandasは「成熟した王道ツール」、Polarsは「新世代の高性能データフレームライブラリ」と言えます。
中小規模ならPandas、大規模や高速性を求めるならPolars、という使い分けが現実的です。
さらに、両者は相互変換が容易なので、共存させて使うアプローチも有効です。
以上、PythonのPandasとPolarsの違いについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。