機械学習の学習と推論について

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AIモデルがどのようにして知識を獲得し、実際の業務やサービスで成果を出すのか。

その中核となる2つのプロセスが「学習(Training)」と「推論(Inference)」です。

この2つのステップを正しく理解することで、AI導入の仕組みや効果をより実感できるようになります。

目次

機械学習の全体像

機械学習のプロセスは、単にデータを投入して結果を得るだけではありません。

大まかな流れは次のようになります。

  1. データ収集(Data Collection)
     観測データ、画像、テキスト、ユーザーログなどを集める。
  2. 前処理(Preprocessing)
     ノイズの除去、正規化、欠損値補完、特徴量抽出などを行う。
  3. 学習(Training)
     モデルにデータを与え、パターンを学習させる。
  4. 評価(Evaluation)
     別のデータでモデルの性能を検証する。
  5. 推論(Inference)
     新しいデータに対して予測を行う。

つまり、「学習」はAIの“教育段階”であり、「推論」は“実務段階”に相当します。

学習(Training)──AIが知識を獲得する段階

学習とは、モデルがデータをもとに最適なパラメータ(重み)を見つけ出すプロセスです。

ここでモデルは、データの中に潜む法則や相関関係を“自ら発見”します。

具体例:広告クリック率予測

過去の広告データ(ユーザー属性、時間帯、デバイスなど)と「クリックされた/されなかった」という実績を学習させることで、モデルは「どんな条件のときにクリックされやすいか」という傾向を把握します。

学習の仕組み

  1. 順伝播(Forward Propagation)
     入力データをモデルに通して出力を得る。
  2. 誤差計算(Loss Calculation)
     予測値と正解値の差(損失関数)を算出。
  3. 逆伝播(Backpropagation)
     誤差をもとにパラメータの更新方向を計算。
  4. 最適化(Optimization)
     勾配降下法などを使って損失を最小化するように重みを調整。

学習の特徴

  • 大量のデータと計算リソースが必要(特にディープラーニングではGPU/TPUを使用)。
  • ハイパーパラメータ調整(学習率、層の数、正則化など)が性能を大きく左右。
  • 学習結果は「学習済みモデル」として保存され、推論で活用される。

なお、ここで述べている流れは「教師あり学習(Supervised Learning)」に基づく説明です。
教師なし学習(クラスタリングなど)や強化学習(報酬を用いる)では構造が異なります。

推論(Inference)──AIが知識を活用する段階

推論とは、学習済みモデルを使って新しいデータに対して予測や分類を行うプロセスです。

このフェーズでは、重みの更新は行わず、モデルの知識をそのまま利用します。

広告配信の例

学習済みモデルに「本日の広告データ」を入力すると、「このユーザーがクリックする確率:0.82」といった結果を瞬時に出力します。

推論の特徴

  • 新規データのみを入力して予測結果を出す(学習済み重みを再利用)。
  • 処理速度が速いため、リアルタイム予測にも対応可能。
  • 再学習は行わない(ただしオンライン学習など例外あり)。
  • 軽量化された環境で動作(ONNX、TensorRT、Core MLなどの最適化技術が用いられる)。

注意:ONNXはモデル形式(中間フォーマット)であり、TensorRTやCore MLは推論最適化エンジンです。
それぞれ異なる役割を持ちながら、推論を効率化するという点で共通しています。

学習と推論の違い(比較表)

項目学習 (Training)推論 (Inference)
目的知識を獲得する知識を活用する
入力学習データ(特徴量+ラベル)新しいデータ(ラベルなし)
出力学習済みモデル予測結果(確率・分類など)
パラメータ更新ありなし(固定)
計算負荷大(数時間~数日)小(ミリ秒~秒)
実行環境高性能GPU・TPU軽量CPU・モバイル対応
主な目的モデル開発・検証実運用・本番適用

マーケティングにおける学習と推論の関係

Webマーケティング領域では、この2つの段階が密接に連携しています。

  • 学習フェーズ
     過去のキャンペーンデータを分析し、「どのユーザーがコンバージョンしやすいか」を学ぶ。
  • 推論フェーズ
     広告配信の瞬間に「このユーザーはクリックしそうか?」をリアルタイムで判定。

このように、学習は裏側の準備作業推論は現場での即時判断を担います。

効果的なAIマーケティングの実現には、両者のバランス設計が不可欠です。

推論を高速化する主要技術

実務では「いかに速く・大量に推論できるか」が成果を左右します。

代表的な高速化・最適化技術には以下のようなものがあります。

  • モデル圧縮(Model Compression)
     量子化(Quantization)や知識蒸留(Knowledge Distillation)によりモデルを軽量化。
  • バッチ推論(Batch Inference)
     複数データをまとめて推論し、計算効率を向上。
  • ハードウェア最適化
     専用チップ(Edge TPU、TensorRT)を活用して高速処理。
  • クラウドデプロイメント
     AWS SageMaker、Google Vertex AI、Azure MLなどのマネージドサービスを利用。

これらを組み合わせることで、高精度かつリアルタイムなAI推論が可能になります。

まとめ:学習と推論の本質的な関係

  • 学習(Training)は、AIが「経験」から知識を獲得するプロセス。
  • 推論(Inference)は、獲得した知識を「現実の意思決定」に応用するプロセス。
  • 両者はAIシステムの両輪であり、どちらが欠けてもビジネス価値は生まれません。

以上、機械学習の学習と推論についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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