有限要素法(FEM: Finite Element Method)は、構造解析や熱伝導解析、流体シミュレーションなど、数値解析の分野で広く使われる強力な手法です。
本記事では、FEMの基本概念からPythonによる実装方法、活用できるライブラリまで、体系的に解説します。
Pythonの持つ柔軟性と豊富なライブラリ群は、FEMの学習や実務での応用において非常に有用です。
初学者の方から実務者まで、幅広く活用できる内容を目指しました。
目次
有限要素法とは
有限要素法は、連続体(構造物、熱場、電磁場など)を有限個の小さな要素(element)に分割し、各要素で定式化された方程式を結合して全体問題を解く数値解析手法です。
FEMの特徴
- 複雑な形状や材料特性を持つ対象に対応可能
- 境界条件・荷重条件を柔軟に設定可能
- 解が局所的に求められるため、精度のコントロールがしやすい
- 多様な物理現象(力学・熱・流体・電磁気)に適用可能
FEMの基本プロセス(構造解析を例に)
以下は、線形静的構造解析の代表的なワークフローです。
- ジオメトリの定義とメッシュ分割
問題領域を小さな要素(三角形、四角形、四面体など)に分割します。 - 要素方程式の導出
各要素に対して変位と応力の関係を定義し、要素剛性マトリクスを導出します。 - グローバル剛性行列の構築
要素剛性マトリクス KeK^e を全体の自由度に応じて統合し、グローバル剛性行列 KK を構築します。 K⋅u=fK \cdot u = f ここで uu は変位ベクトル、ff は外力ベクトルです。 - 境界条件の適用
固定端や対称面、外力などをモデルに反映します。 - 連立方程式の数値解法
通常は線形代数ソルバ(例:LU分解や反復法)を用いて uu を解きます。 - 結果の可視化と解析
得られた変位や応力を可視化し、設計や評価に活かします。
Pythonによる有限要素法の実装例
基本:1Dバネ要素モデル
最も基本的な例として、1次元のバネ要素モデルを考えてみましょう。
import numpy as np
# ノードの位置(0番目と1番目)
nodes = np.array([0.0, 1.0])
elements = [(0, 1)]
k = 100.0 # バネ定数
# 剛性行列の初期化
K = np.zeros((2, 2))
for i, j in elements:
K[i, i] += k
K[i, j] -= k
K[j, i] -= k
K[j, j] += k
# 外力ベクトル
f = np.array([0.0, 10.0])
# 境界条件(ノード0を固定)
K[0, :] = 0
K[0, 0] = 1
f[0] = 0
# 解を求める
u = np.linalg.solve(K, f)
print("変位:", u)
このコードでは、剛性行列 KK を構築し、境界条件を適用したうえで変位 uu を計算しています。
Pythonで使えるFEMライブラリ
本格的な解析を行うには、以下のようなFEMライブラリの活用がおすすめです。
FEniCS
- 強力なFEMソルバ。偏微分方程式をPython上で直接記述可能
- 自動微分による弱形式の定式化が可能
- 可視化やメッシュ生成、境界条件の設定まで統合
SfePy(Simple Finite Elements in Python)
- 純Python製のFEMライブラリ
- よりカスタマイズ性の高い問題設定に向いている
- 材料非線形性・時間依存性にも対応可能
その他の補助ライブラリ
ライブラリ名 | 用途 |
---|---|
meshio | Gmshなどのメッシュデータ読み書き |
pygmsh | PythonからGmsh形式メッシュを生成 |
matplotlib / mayavi | 結果の可視化 |
FEMが活躍する分野
FEMは次のような多岐にわたる分野に応用されています:
- 構造解析:機械・建築分野の応力・変形の計算
- 熱解析:熱伝導・冷却シミュレーション
- 流体解析:Navier-Stokes方程式に基づく流体挙動の解析
- 電磁場解析:アンテナ、モーターなどの電磁場の解析
まとめ

Pythonを使った有限要素法の学習は、以下のような魅力があります。
- 理論と実装の両面からFEMを学べる
- 教育・研究・業務プロトタイプに最適
- 高度なFEMソルバもPythonから制御可能
- 可視化やデバッグがしやすく、再現性も高い
FEMは一見とっつきにくく見えますが、Pythonを活用することで実装のハードルが大幅に下がります。
まずは1次元のモデルからスタートし、2D・3Dの解析へと徐々にスキルを広げていきましょう。
以上、Pythonの有限要素法についてでした。
最後までいただき、ありがとうございました。