大規模言語モデル(LLM)を活用する場面が増える中で、「ファインチューニング」と「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という言葉をよく耳にするようになりました。
どちらも LLM の性能を高めるための手法ですが、仕組みも役割も大きく異なります。
本記事では、それぞれの特徴とメリット、使い分けの基準まで、専門的な内容を整理しつつ丁寧に解説します。
ファインチューニングとは?
ファインチューニングは、既存のLLMに対して追加の学習データを与えることで、モデルのパラメータを更新し、特定のタスクに適応させる技術です。
特徴
- モデル内部のパラメータが書き換わる
- 新しい文体・形式・タスクをモデル自身が「覚える」
- 一度学習した内容を変えるには再学習が必要
- 文体の統一や特定タスクへの最適化に強い
分類や意図判定、特定フォーマットでの回答など、モデルの“挙動そのもの”を変えたい場合に有効です。
ファインチューニングの種類
ファインチューニングには複数の手法があります。
- フル・ファインチューニング:全パラメータを更新する方法
- LoRA / PEFT などの軽量ファインチューニング:
モデル本体を凍結したまま一部の追加層だけを学習させる方法
現在は軽量手法が主流となりつつあります。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは?
RAGは、外部データベースに保存された文書を検索し、それらを LLM に参照させることで回答を生成する技術です。
LLM 自体は書き換えず、「検索された情報」を材料として文章を生成します。
仕組み
- 入力テキストを元に関連文書を検索(ベクトル検索やキーワード検索)
- 検索結果をコンテキストとしてLLMに渡す
- LLMがそれらを参照して回答を生成する
特徴
- モデルのパラメータは変更されない
- 外部データを差し替えるだけで最新情報を扱える
- 大量の文書を扱える
- 回答品質が検索精度に大きく依存する
RAGは、変化が激しい情報や大量のナレッジを扱う場合に特に効果的です。
ファインチューニングとRAGの違い
両者の違いを表にまとめると、次のようになります。
| 観点 | ファインチューニング | RAG |
|---|---|---|
| モデルパラメータ | 更新される | 更新されない |
| 知識の保持場所 | モデル内部 | 外部データベース |
| 更新方法 | 再学習が必要 | データ差し替えで即反映 |
| 得意分野 | 文体・タスク特化 | 最新情報・大量知識 |
| 依存要素 | 学習データの質 | 検索精度・DB構造 |
簡単に言えば、
- ファインチューニング = モデルを育てる
- RAG = モデルに資料を参照させる
という違いがあります。
どちらを使うべきか?選択の基準
どちらを選ぶべきかは、目的によって明確に分かれます。
ファインチューニングが向いているケース
- モデルに文体や振る舞いを覚えさせたい
- 分類など、タスク特化の処理を学習させたい
- 特定形式(JSONなど)で安定した出力が必要
- 一貫性の高い応答が求められる
RAG が向いているケース
- 最新情報を扱う必要がある
- 文書量が多く、すべてをモデルに覚えさせるのが非効率
- データが頻繁に更新される
- モデル内部を触らずに知識を拡張したい
実は「組み合わせ」がもっとも強い
実際のシステムでは、
- ファインチューニングで”どう答えるか”を調整し、
- RAGで”何を根拠に答えるか”を提供する
という構成がもっとも高い性能を発揮します。
モデルに文体やタスク処理能力を身につけさせ、知識部分は外部データとして最新の情報を参照する。
このような役割分担は非常に合理的です。
まとめ
- ファインチューニングは、モデルの能力・挙動を強化する技術
- RAGは、外部データを参照させて知識を補強する技術
- 両者は競合ではなく、役割が異なる
- 目的によって使い分け、必要に応じて併用すると最も効果的
大規模言語モデルの活用が進む中で、これら二つのアプローチを正しく理解することは、システム設計やサービス開発の質を大きく左右します。
以上、ファインチューニングとRAGの違いについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
