距離行列とクラスタリングは、データ分析において切り離して考えることができない関係にあります。
クラスタリングは「似たもの同士をまとめる」手法ですが、その「似ているかどうか」を判断する基準として使われるのが距離行列です。
言い換えると、距離行列は「データ同士の関係性を数値で整理した一覧表」であり、クラスタリングはその一覧表をもとに、データの集まり方や構造を見つけ出す手続きだと言えます。
距離行列とは何か
距離行列は、すべてのデータ同士について「どれくらい違うか」「どれくらい似ていないか」を計算し、表の形にまとめたものです。
ここで重要なのは、距離行列が必ずしも厳密な意味での「距離」だけを扱っているわけではない、という点です。実際の分析では、
- 物理的・幾何的な距離
- 方向の違いを表す尺度
- 振る舞いや傾向の違い
- 類似度を加工して作った指標
など、「距離に近い概念(非類似度)」が広く使われます。そのため距離行列は、「距離」だけでなく「どれくらい違うと見なすか」という考え方を数値化したもの、と理解する方が正確です。
クラスタリングは距離行列をどう使うのか
クラスタリング手法は、基本的に距離行列の情報を使って次のような判断を行います。
- この2つのデータは、同じグループに入れるほど似ているか
- どのグループ同士を統合すれば自然か
- どこでグループを分けると意味のある構造になるか
つまり、クラスタリングは距離行列を「判断材料」として、データ全体の構造を組み立てていく作業だと言えます。
距離行列の作り方が変われば、これらの判断もすべて変わるため、同じデータを使ってもまったく違うクラスタ結果が得られることがあります。
距離行列を強く意識する手法:階層的クラスタリング
階層的クラスタリングは、距離行列との結びつきが特に強い手法です。
この手法では、最初はすべてのデータを別々のグループとして扱い、そこから「距離が近いもの同士」を順番にまとめていきます。
その過程は木の枝のような図で表され、データ同士がどの順番で結び付けられたかを視覚的に確認できます。
この方法では、
- データ同士の距離
- グループ同士の距離の定義方法
の両方が結果に大きく影響します。
距離行列が少し変わるだけで、グループの統合順序や最終的な構造が大きく変わるため、距離設計の重要性が非常に高い手法だと言えます。
距離を内部で使うクラスタリング手法
すべてのクラスタリング手法が、距離行列をそのまま入力として使うわけではありません。
例えば、代表的な手法である k-means では、データとグループの中心との「近さ」を繰り返し計算しながらグループを更新します。
この方法は、データが空間上に自然に配置されているという前提が強く、使われる距離の考え方もほぼ決まっています。
また、DBSCAN のような手法では、「ある範囲内にどれだけ多くのデータが集まっているか」を基準にグループを作ります。
ここでも距離の定義は重要で、距離の取り方が変わると、どこまでを密集と見なすかが変わります。
このように、距離行列を明示的に使わない場合でも、距離の考え方自体はクラスタリングの中心にあります。
距離行列の設計が結果を左右する理由
距離行列は、元のデータをそのまま写し取ったものではありません。以下のような要素が強く反映されます。
- データの尺度を揃えているかどうか
- どの特徴を重視し、どの特徴を軽く扱うか
- 数値データ・カテゴリデータ・テキストなど、データの性質に合った距離を選んでいるか
これらの判断はすべて距離行列に集約され、クラスタリング結果として現れます。
そのため、結果が直感に合わない場合は、アルゴリズムより先に距離行列の設計を見直す必要があります。
距離行列を軸に考えるメリット
距離行列を中心に考えると、次のような利点があります。
- アルゴリズムに依存しすぎずに分析できる
- なぜそのクラスタ構造になったのかを説明しやすい
- 分析者のドメイン知識を反映しやすい
特に、顧客分析や行動データの分析では、距離行列は「顧客同士の関係性をどう定義するか」という設計図の役割を果たします。
まとめ
距離行列は、データ同士の違いや関係性を整理した基盤情報です。
クラスタリングは、その基盤情報をもとに、データの構造やグループを見つけ出す手法です。
クラスタリングの結果は、手法そのものよりも、「どのような考え方で距離を定義したか」に大きく影響されます。
距離行列を丁寧に設計することが、意味のあるクラスタリングにつながる最も重要なポイントだと言えるでしょう。
以上、距離行列とクラスタリングの関係についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
