クラスタリングは、ラベル(正解)が付与されていないデータ集合に対して、類似度や距離を基準にグループ分けを行う教師なし学習手法です。
重要な前提として、クラスタリングには以下の特徴があります。
- 「唯一の正解」は存在しない
- 得られるクラスタは仮説生成のための構造である
- 手法よりも特徴量設計・前処理の影響が非常に大きい
- 結果は解釈されて初めて意味を持つ
このため、分類(教師あり学習)や予測とは役割が異なり、探索・整理・構造把握を主目的として用いられます。
目次
製造業・設備保全での活用
稼働状態のパターン分類
目的
機械や設備の稼働状態を複数の運転パターンに分解し、状態理解を深める。
典型的なデータ
- 振動、温度、電流、圧力、回転数などのセンサーデータ
- 時系列から抽出した統計量(平均、分散、ピーク、周波数成分など)
活用方法
- 正常稼働データをクラスタリングし、「低負荷」「高負荷」「起動直後」「停止直前」などの状態群を形成
- どのクラスタにも属しにくいデータを、要注意状態として扱う
注意点
- 異常検知の主手法ではなく、あくまで補助的手段
- 実運用では専用の異常検知手法と併用されることが多い
不良品のタイプ分解
目的
同じ「不良」という結果でも、原因の異なる複数のパターンを分離する。
典型的なデータ
- 寸法測定値
- 外観検査スコア
- 工程条件、材料ロット情報
活用方法
- 不良サンプル群のみを対象にクラスタリング
- 各クラスタの共通条件を抽出し、原因仮説を立てる
ポイント
- クラスタそのものより、「なぜこのグループができたか」の解釈が重要
- ドメイン知識がないと意味のある結論に至らない
医療・ヘルスケア分野での活用
患者サブタイプの探索
目的
同一疾患名の中に存在する異なる状態像を発見する。
典型的なデータ
- 検査値
- 問診項目
- 服薬履歴
- 研究用途では遺伝子発現データなど
活用方法
- 患者をクラスタリングし、複数のサブグループに分割
- 各クラスタの経過や特徴を後段の統計解析で比較
注意点
- 欠損値・スケール差・高次元性への対処が不可欠
- 結果は必ず専門家の解釈を前提とする
文書・ログデータの整理(自然言語処理)
文書の内容別グルーピング
目的
大量の文章データを意味的な近さで整理・構造化する。
典型的なデータ
- 問い合わせ文
- 報告書
- 障害ログの説明文
- 議事録や日報
活用方法
- 文書をベクトル表現(TF-IDF、文埋め込みなど)に変換
- 類似文書をクラスタリング
- 各クラスタの代表文を抽出し、主要テーマを把握
実務的な利点
- 内容の重複や近似トピックの発見
- 情報整理やナレッジ統合の補助
画像解析分野での活用
画像データの自動仕分け
目的
ラベルのない大量の画像を、見た目の近さで分類する。
典型的なデータ
- 画像から抽出した特徴ベクトル(CNNの中間層出力など)
活用方法
- 特徴ベクトルをクラスタリング
- クラスタ単位で目視確認やラベル付けを実施
用途
- データセットの整理
- 重複画像・類似画像の検出
- アノテーション作業の効率化
セキュリティ・行動分析での活用
行動パターンの分離
目的
一見すると同じ「通常行動」に見えるものを、複数の型に分ける。
典型的なデータ
- 操作頻度
- 時間帯
- 操作系列
- アクセス元情報
活用方法
- 通常行動をクラスタリングして複数パターンに分解
- どのクラスタにも近づかない挙動を注意対象として扱う
注意点
- クラスタリング単体では検知精度に限界がある
- 専用の不正検知・異常検知手法と組み合わせるのが一般的
クラスタリング手法の特性と前提
主な手法と注意点
- K-means
- 前提:球状クラスタ、同程度の分散
- 外れ値に弱く、スケーリングの影響を強く受ける
- 階層クラスタリング
- 少量データの構造把握に有効
- 大規模データでは計算量が問題になりやすい
- DBSCAN / HDBSCAN
- 密度に基づくクラスタリング
- 外れ値検出に向くが、密度差や高次元データに弱い
- GMM(Gaussian Mixture Model)
- 確率的にクラスタ所属を扱える
- 分布仮定・初期値依存がある
評価と実務上の注意点
評価の考え方
クラスタリングには正解がないため、以下のような内部評価指標が用いられます。
- シルエット係数
- Davies–Bouldin 指数
- Calinski–Harabasz 指数
- データを変えたときの安定性
よくある失敗例
- 特徴量のスケールを揃えずに距離が歪む
- 高次元データで距離が意味を持たなくなる
- 解釈できないクラスタが生成される
- 評価を行わず、結果を鵜呑みにする
まとめ
クラスタリングは、
- 予測や分類の代替ではない
- 結果をそのまま意思決定に使う手法でもない
- データ構造を理解するための探索的手法である
という位置づけが最も正確です。
実務においては「クラスタを作ること」よりも「なぜその分かれ方になったのかを説明できること」が価値を決定します。
以上、クラスタリングの活用事例についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
