機械学習には複数の学習手法がありますが、その中でも特に重要なのが教師あり学習(Supervised Learning)と強化学習(Reinforcement Learning)です。
この2つはしばしば並べて語られますが、学習の目的・データの与え方・意思決定の考え方が本質的に異なります。
本記事では、表面的な違いだけでなく、実務やビジネスでの使い分けまで含めて、正確に整理します。
教師あり学習とは
定義
教師あり学習とは、正解(ラベル)が付与されたデータを用いて、入力から出力を予測する関数を学習する手法です。
モデルは「この入力に対して、この出力が正しい」という対応関係を大量のデータから学び、予測誤差(損失)を最小化することを目的とします。
主なタスク
教師あり学習は、主に以下の2つに分類されます。
- 分類(Classification)
例:- メールが迷惑メールかどうか
- 画像に写っている物体が何か
- 回帰(Regression)
例:- 売上や需要の予測
- 価格や数値指標の推定
学習の基本的な考え方
- 入力データ (x) に対してモデルが予測 (y’) を出す
- 正解ラベル (y) との差を損失関数で計算
- 損失が小さくなるようにモデルのパラメータを更新
- これを大量のデータで繰り返す
教師あり学習は、「どれだけ正解に近づけるか」が明確なため、評価や改善が比較的行いやすいのが特徴です。
強みと注意点
強み
- 評価指標(精度、F1、RMSEなど)が明確
- 学習が安定しやすい
- 実務での適用事例が非常に多い
注意点
- ラベルの設計が難しい場合がある
- ラベルにノイズや偏りがあると性能が劣化する
- 過去データと将来データの分布が変わると精度が落ちる(ドメインシフト)
強化学習とは
定義
強化学習とは、正解となる行動を事前に与えず、行動の結果として得られる報酬を手がかりに、最適な行動戦略(方策)を学習する手法です。
目的は、単発の成功ではなく、将来にわたる累積報酬(期待リターン)を最大化することです。
基本構成要素
強化学習は以下の要素で構成されます。
- 状態(State):現在の状況
- 行動(Action):取り得る選択肢
- 報酬(Reward):行動の評価
- 方策(Policy):状態に応じて行動を選ぶルール
エージェントは、環境との相互作用を通じて「どの状態で、どの行動を取ると良い結果につながるか」を学習します。
学習の特徴
- 正解行動のラベルは存在しない
- 行動が次の状態に影響するため、データが独立にならない
- 短期的な結果よりも、長期的な成果を重視する
ここが教師あり学習との最も大きな違いです。
強みと難しさ
強み
- 複雑な意思決定問題に対応できる
- 長期的な最適化が可能
- ルールが明示できない問題にも適用できる
難しさ
- 報酬設計が不適切だと望ましくない行動を学ぶ
- 学習が不安定になりやすい
- 評価や安全性の確保が難しい
- 実環境での試行錯誤にはコストやリスクが伴う
教師あり学習と強化学習の本質的な違い
| 観点 | 教師あり学習 | 強化学習 |
|---|---|---|
| 学習の目的 | 予測誤差の最小化 | 累積報酬の最大化 |
| 正解データ | 必要(ラベル付き) | 不要(報酬のみ) |
| 学習単位 | 各データが比較的独立 | 行動と状態が連続的に依存 |
| 意思決定 | 直接は扱わない | 本質的に扱う |
| 評価 | 比較的容易 | 難しいことが多い |
| 代表的用途 | 分類・回帰・予測 | 制御・最適化・戦略学習 |
具体例で見る違い
教師あり学習の例
購入確率予測
- 入力:ユーザー属性、閲覧履歴
- 正解:購入したかどうか
- 目的:購入確率を高精度に予測する
これは「過去の正解を当てる」タイプの問題です。
強化学習の例
ゲームAI
- 状態:現在の盤面
- 行動:次の一手
- 報酬:勝利・敗北
どの行動が正しいかは事前に分からず、結果から学習します。
実務・ビジネスでの使い分け
教師あり学習が向くケース
- 過去データが豊富にある
- 正解を定義できる
- 安定した予測が求められる
例:需要予測、CTR/CVR予測、スコアリング
強化学習が向くケース
- 状況に応じて行動を変えたい
- 短期成果より長期価値を重視する
- 明確なルール化が困難
例:価格調整、在庫制御、長期LTV最適化
※なお、広告配信やレコメンドでは、短期最適化はバンディット手法、長期最適化は強化学習という形で使い分けられることが多く、必ずしも全てが強化学習とは限りません。
実務でよく使われるハイブリッド構成
現実のシステムでは、以下のような組み合わせが一般的です。
- 教師あり学習で予測モデルを構築
- その予測結果を用いて、ルール・探索・最適化を行う
- 必要に応じて強化学習やバンディットを部分的に導入
単一の手法ですべてを解決するケースは稀です。
まとめ
- 教師あり学習は「正解を見て当てる学習」
- 強化学習は「結果の良し悪しから行動を学ぶ学習」
両者は競合するものではなく、問題の性質によって使い分け、組み合わせるものです。
この違いを正確に理解することで、AI活用やアルゴリズム設計の判断精度が大きく向上します。
以上、強化学習と教師あり学習の違いについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
