機械学習にはいくつかの代表的な学習パラダイムがありますが、その中でも「教師なし学習」と「強化学習」は混同されやすい分野です。
どちらも正解ラベルを必要としないという共通点を持つ一方で、目的・考え方・使われ方は本質的に異なります。
本記事では、両者の違いを定義から実務レベルまで、誤解のない形で整理します。
教師なし学習とは
定義
教師なし学習(Unsupervised Learning)とは、正解ラベルが与えられていないデータのみを用いて、データの内部構造や特徴を捉える学習手法です。
ここで重要なのは、
- 「何が正解か」は事前に与えられない
- しかし 目的関数や評価基準が存在しないわけではない
という点です。
教師なし学習では、「このデータ群にはどのような傾向・まとまり・潜在的構造があるのか」を明らかにすることが主な目的になります。
教師なし学習が扱うデータ
- 入力データ:あり
- 正解ラベル(外部教師):なし
例
- 顧客属性・購買履歴
- Webアクセスログ
- センサーデータ
- ラベル付けされていない文章・画像データ
主な目的
教師なし学習の目的は、以下のように整理できます。
- データの構造理解
- 類似データのグルーピング
- 特徴表現の抽出・圧縮
- 異常パターンの検出
つまり、「判断」よりも理解・整理・表現に重きが置かれています。
代表的な手法
クラスタリング
- k-means
- 階層的クラスタリング
- DBSCAN
データを類似度に基づいて自動的にグループ化する
次元削減・表現学習
- PCA(主成分分析)
- t-SNE / UMAP
- オートエンコーダ(Autoencoder)
高次元データを少数の意味のある特徴で表現する
※オートエンコーダは一般に教師なし学習として扱われますが、「入力から入力を予測する」という性質から、自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)の一種と説明されることもあります。
異常検知
- Isolation Forest
- One-Class SVM
- 再構成誤差を用いた手法
実務での利用例
- 顧客セグメンテーション
- ユーザー行動パターンの把握
- 製造業における異常検知
- 記事・商品・コンテンツの自動分類
- 下流タスク(分類・回帰)のための特徴生成
強化学習とは
定義
強化学習(Reinforcement Learning)とは、エージェントと呼ばれる学習主体が環境と相互作用しながら、得られる報酬の累積を最大化する行動戦略を学習する手法です。
強化学習の本質は、
「今どの行動を選べば、将来的に最も大きな価値を得られるか」
という逐次的な意思決定問題を解くことにあります。
強化学習の基本構成要素
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| エージェント | 行動を選択する主体 |
| 環境 | エージェントが影響を与え、影響を受ける世界 |
| 状態(State) | 環境の現在の状況 |
| 行動(Action) | エージェントが選択できる行動 |
| 報酬(Reward) | 行動結果に対する評価信号 |
学習の流れ
- 状態を観測する
- 行動を選択する
- 環境が変化する
- 報酬を受け取る
- 将来の行動選択を改善する
このプロセスを繰り返しながら、長期的な報酬を最大化する方策(ポリシー)を学びます。
強化学習の特徴
- 明示的な正解ラベルは存在しない
- 代わりに 報酬という評価信号 が与えられる
- 各行動が将来の状態や報酬に影響を与える
- 試行錯誤(探索と活用)が不可欠
代表的な手法
- Q学習
- SARSA
- Deep Q-Network(DQN)
- Policy Gradient
- PPO / A3C / SAC など
実務・研究での利用例
- ゲームAI(囲碁・将棋・Atari)
- ロボット制御
- 自動運転の意思決定
- 広告配信・レコメンドの最適化
- 価格調整・在庫制御
教師なし学習と強化学習の違い(整理)
比較表
| 観点 | 教師なし学習 | 強化学習 |
|---|---|---|
| 正解ラベル | なし | なし |
| 評価信号 | 内部的な目的関数 | 明示的な報酬 |
| 主な目的 | 構造・特徴の理解 | 行動戦略の最適化 |
| データの扱い | 静的データが中心 | 環境との相互作用 |
| 時間的要素 | 基本的に弱い | 逐次意思決定が本質 |
| 出力 | クラスタ・特徴表現 | 方策(行動ルール) |
思想の違いを一言で言うと
- 教師なし学習
→ データを「理解・整理」するための学習 - 強化学習
→ 行動を「選択・改善」するための学習
補足:両者は対立ではなく補完関係
実務では、両者を組み合わせるケースも少なくありません。
- 教師なし学習で状態や特徴を圧縮
→ 強化学習の入力として利用 - 教師なし学習で顧客セグメントを作成
→ 強化学習でセグメント別施策を最適化
まとめ
- 教師なし学習は「ラベルなしデータから構造を捉える」ための学習
- 強化学習は「報酬を最大化する行動を学ぶ」ための学習
- 両者は目的・設計思想・適用分野が根本的に異なる
- 実務では相互補完的に使われることも多い
以上、教師なし学習と強化学習の違いについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
